Tシャツとサンダルの候

何事にも縛られず、自由気ままにリタイヤ生活を楽しむオヤジの日々

風の食堂

 

 

 

ほぼ日課となった、母親との面会を済ませたあと、

「道の駅で買い物して、どこかで昼飯食って帰ろうか。」(私)

「どこで。」(家内)

ここだ。

巨瀬川の川岸に建つ大衆食堂『加月食堂』である。

前から気になっていた食堂である。

先ずはこの外観だ。

大衆食堂フリークとしては、ビシビシ刺さる面構えである。

裏もまた良い。

店舗前を広げたかったのだろう。

後ろにずらした結果、半分は中空に浮いている。

この時点で既に、私は胸が一杯である。

店の中に入ってみた。

想像を絶する光景に息をのんだ。

エアコンがない。

この猛暑にエアコンがないのだ。

故障とかでは無い。

はなからないだ。

断固としてないのだ。

あるのは天井から下げられた数個の扇風機だけ。

私の脳は事態を理解するのに、数秒を要した。

ここまでくると最早、

 

天晴れである!

 

50年前、ラーメン屋だって、うどん屋だって、大概の店はこうだったじゃないか。

タイムスリップが起きたかのような光景に、軽いめまいがした。

「でも、そんなに暑くないよ。川の風が気持ちよか。」(家内)

「確かに。」(私)

 

開け放たれた窓からは、巨瀬川を渡る風が入ってきて、存外に涼しい。

私の注文はこれだ。

 

家内はこれ。

 

では、

 

ズルズルズル

 

所謂食堂系ラーメンであり、本格的久留米ラーメンを求める人には、、、

いや、ラーメンの味なんて、どうだっていい。

そんなものを超越した、この圧倒的な佇まいにこそ、この店の全てがある。

最後は、一枚残して置いたチャーシューとともに。

 

同年代の人なら思い起こせるだろう。

エアコンなどない真夏の食堂で、熱いラーメンを啜ったあの懐かしい日々を。

 

 

正午を過ぎた頃になると、馴染み客らしき人達で一杯になる。

恐らく全員が、この店にエアコンが無い事を知る客である。

この店が如何に愛されてきたが分かる。